①龍鍋日記【鍋を食べるのなら熱いうちに】

 お陽さまがランランと照らす中、少年はこの国へとやってきた。この国へやってきたのは特に理由はない。ただ昔の事が知られていないであろうにゃんにゃんの国であれば別にどこでも良かった。まぁ、しばらくは観光でもしつつ定住の場所を探すつもりだったのでわりと目的も理由もなく、ただ単純にクイクイが昔、鍋の国に来たことがあるというだけで鍋の国へやってきたのである。


「なぁ、クイクイ、ここが鍋の国なのか?」

「そうだよ」


 少年は自分の肩に乗っているクイクイに話しかけた。クイクイは今は猫の姿になっているので傍から見ると旅人風の少年と猫に見える。


「ここなら、多分、あんまり過去の事は詮索されないと思うよ」

「ふーん」


 少年はそう言うと、たった一つの荷物であるカバンを持つと近くにある地図を見た。地図は観光マップらしく、所々に観光名所らしきものが載っている。またそれとは別に猫のマークが所々につけられている。


「あ、そうそう。新しい名前を考えないと」

「新しい名前?」

 クイクイの言葉に少年はそのまま疑問を返した。

「だって、前の名前そのままだと色々マズイしね」

「ふーん、名前かぁ。そんな事考えたこともなかったもんなぁ。結局ずっと影だったわけだし……」

 少年の言葉にクイクイは少しだけ行方不明となった友人の事を思い出した。

「……名前かぁ、難しいよなぁ」

 自分に名前がつくということを考えたことがなかった少年は腕を組んで悩んだ。

「なぁ、クイクイ。どんな名前がいいかな?」

「んー、そうだなぁ。鍋の国ではなんとか鍋とか鍋なんとかって名前が多いから上の名前は鍋つけるといいかも?」

 クイクイはそう言えば、自分の名前も友人が付けてくれたんだよなぁっと思いつつも以前鍋の国に来た事のことを思い出しつつ答えた。

「鍋かぁ、じゃあ、クイクイ鍋ってのはどう? オレには名前なかったし、どうせなら、友達の名前使いたい」

 クイクイは思考が今は亡き親友と似てるなぁ、直接的な係わりはないのに影やってたら似てくるのかなぁっと思いつつも苦笑した。

「それだと、ボクが鍋になって食べられちゃうよ。それなら龍なんかどう? 龍鍋、ボクと全然関係ないわけじゃないし、さすがに勇龍は国名そのままだからマズいけど」

「じゃあ、それにする。下の名前は……んー、何がいいんだろ?」

 少年は再び悩み始めた。いざ名前決めるとしても難しいんだなぁっと思いつつもクイクイは提案した。

「まぁ、下の名前は前と同じユウでいいと思うよ。呼ばれ慣れてる方がいいだろうし、本来の名前の持ち主も喜ぶと思うよ」

「ん? そうかな。まぁ、わかりやすいしいいかな?」

 少年もとい新しく龍鍋 ユウとなった少年はそう言うとブラブラと町を歩きだした。町は活気があふれ、大勢の人が歩いている。龍鍋は今まであまりこういった大通りを歩いた事がなかったので何か新鮮だなぁっと当たりを見まわしていた。

「ん? あれ何だろ? なんだかいい匂いがするけど?」

 龍鍋の視線を追ってみると道路の横のスペースで鍋をしている人たちがいた。

「あ、ああ、あれは鍋国名物の道端での鍋パーティだよ。この国ではどこでも気軽に鍋を食べる習慣があるから」

 昔、この国にやってきた時に猫の格好で鍋をごちそうになったのを思い出しつつもクイクイは説明した。

「そういや、鍋ってなに?」

「あ、そうか、鍋じゃわかんないか。色々食材を煮て食べる料理……で説明はいいかな?」

 クイクイは龍鍋の影生活を思い出しつつも、そういえば鍋のような大勢で食べるような料理、ユウは食べた事なかったんだなぁっとあらためて実感した。そもそも毒味役を通した料理である以上、温かい料理でもなかった。

「ふーん。じゃあ、鍋の国の鍋ってのはアレの事なのか」

 龍鍋がジっと見ている事に気づいたのか、鍋をしているおっちゃんが龍鍋に声をかけた。

「おい、ボウズ、見た所、観光客みたいだが、どうだ、食ってくか?」

 おっちゃんはそう言うとどう答えたらいいか迷う龍鍋を鍋の席へと案内した。

「これが鍋……」

 龍鍋はグツグツと煮える鍋からの湯気からただよう匂いに喉をゴクっと鳴らした。

「なんだ? 鍋食ったことないのか? へへ、ならたんと食いな」

 おっちゃんはお椀に白菜、ネギ、肉、しらたき、トウフと豪快に盛りつけると龍鍋の前に差し出した。龍鍋は箸をもらうと白菜をそっと口に運んだ。舌に溶ける白菜。熱さとともにうまみを舌に残して白菜は喉を通っていった。

「こ、これは……」

 目を丸くする龍鍋をよそに、クイクイも肩から降りておっちゃんに鍋をお椀にそってもらい、ゆっくりと鍋を食した。これが龍鍋 ユウの初鍋体験だったのである。

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